臨床血液学 基礎的な事項
血液学の総論的な部分のまとめです。
血液の成分である赤血球や白血球、血小板、血漿等について。
また凝固のしくみなど、血液学の概要を理解していきます。
まず大事なこと・・
◎血液は体重の約13分の1(約8%)を占める。
成人で約75〜80mg/kg
◎試験管内で放置 → 血清と血餅(血清は凝固因子を含まない)=凝固している
◎抗凝固剤を加えて遠心 → 血漿と血球(血漿は凝固因子を含む)=凝固していない
血液の成分
@赤血球(直径7〜8μm)
・男性:410〜530万/μl、女性:380〜480万/μl =性差がある
・寿命は約120日、主に脾臓のマクロファージに処理される
・膜は脂質とタンパク質からなり、ATPを使ってK+を入れてNa+を外に出す。
・内部は3分の1がHb、3分の2は水分。
・腎臓から産生されるEPO(エリスロポエチン)によって分化・成熟する。
(大きく、低比重)
BFU-E→CFU-E→前赤芽球→好塩基性赤芽球 →多染性赤芽球
→ 正染性赤芽球→網赤血球→赤血球
(小さく、高比重)
A白血球
・成人4000〜9000/μL = 性差はないが、個人差が大きい
・白血球は顆粒球(好中球・好酸球・好塩基球・単球)とリンパ球(NK細胞、
T細胞、B細胞)に分けられる。それぞれの割合、役割、数の異常・疾患、分化の
過程が大切。
1.好中球(60%)
・殺菌、走化、貪食、粘着の機能を持つ。
・細菌感染、炎症、心筋梗塞などで増加。
骨髄芽球
↓
前骨髄球
・MPO(ミエロペルオキシダーゼ)などを含む一次(アズール)顆粒をもつ
→POD染色強陽性
・AML M3(APL)で増加
↓
骨髄球
・ALP(アルカリフォスファターゼ)などを含む二次(特異)顆粒をもつ
↓
後骨髄球
↓
桿状核球・分葉核球
2.好酸球(3%)
・走化性、貪食、殺菌性をもつが好中球より弱い。
・アレルギー、寄生虫、AML M4の16逆位、ホジキンリンパ腫、Addison病、
Basedow病などで増加を示す。
・血管内滞在時間は約10時間
・IL-5によって分化・成熟
3.好塩基球(0.5%)
・ヒスタミン放出による花粉症などの即時型アレルギー反応を起こす。
・CMLでの増加が顕著(0.5%が5%〜)である。
・IL-4によって分化・成熟
4.単球(7%)
・血管から組織に移動するとマクロファージになる。
・走化、貪食、異物処理、殺菌、免疫能(抗原提示)などを持つ。
・炎症反応に関与、補体やリゾチーム等の産生、鉄やコレステロールの貯蔵、
造血因子(G-CSFなど)の産生など
5.リンパ球(30%)
・骨髄から産生された多能性幹細胞がリンパ球幹細胞に分化したのち、胸腺
ではT細胞となり、骨髄ではB細胞となる。
・T細胞は細胞性免疫、B細胞は液性免疫、NK細胞はウィルス感染細胞・
腫瘍細胞・移植細胞などに対する攻撃など免疫機能に関与する。
・ウィルス感染、百日咳、結核などで増加。
・寿命は短いもので数日、長いもので10〜20年と役割によって様々。
B血小板(直径2〜4μm)
・基準値:15〜35万/μL =性差なし
・寿命は約10日
・主に肝臓で産生されるTPO(トロンボポエチン)によって分化・成熟。
一つの巨核球から分裂して約2000個の血小板になる。
・3分の2は循環、3分の1は脾臓に貯蔵されている。
・血小板の中にはα顆粒と濃染顆粒がある。
・α顆粒→タンパク質(βトロンボグロブリン、血小板第4因子、vWF、フィブリ
ノーゲン)を含む。
濃染顆粒→ADPやATP、セロトニン、カルシウムイオンを含む。
・粘着・放出・凝集の機能を持ち、一次止血に関与する。
・無効造血や抹消での破壊・消費(ITP・TTP・HUS・DICなど)、肝硬変などで減少。
C血漿
・免疫グロブリン、補体
・凝固因子、線溶因子
・サイトカインなど
造血部位
@出生前:卵黄嚢 → 肝・脾 → 骨髄 ☆妊娠約20週で肝・脾のピーク
出生後:骨髄(椎骨>胸骨>肋骨>大腿骨・脛骨)
A骨髄
・体重の約5%(1300〜3700g) =肝臓や脳より重い
・赤色髄は造血を行う。黄色髄は脂肪に置き換わっているため造血はしない。
B脾臓
・80〜100g
・胎生期には骨髄系細胞も産生。生後にはリンパ球(主にB細胞)の産生、
網内系マクロファージによる老廃血球の処理、血球貯蔵機能(主に血小板)
がある。
・機能亢進:汎血球減少症
機能低下:封入体、異形赤血球が出現
Cリンパ組織
胸腺ではT細胞の分化、骨髄ではB細胞の分化を行う。
ヘモグロビン・葉酸・B12・鉄
@ヘモグロビン
・Hb(ヘモグロビン)はヘム(4分子)+ グロビン(1分子)からなる。
ヘム(4分子) = Fe2+(4分子)+ プロトポルフィリン(4分子)
グロビン(1分子)=α鎖(2分子)+ 非α鎖(2分子)
・HbA: α2β2からなる。成人のHbの97%。
HbA2:残り3%を占めるHb。
HbF: α2γ2からなる。胎児の主要Hbでアルカリ抵抗性あり。
・酸素親和性はHbA<HbF
・Hbの合成は好塩基性赤芽球〜網赤血球までの分化の過程で行われる。
A葉酸・B12
・DNAの合成に必須の補酵素
・欠乏すると巨赤芽球貧血(悪性貧血)となる。無効造血となる。
・葉酸は空腸上部で吸収し、肝臓で貯蔵。
・B12は胃の壁細胞から分泌される内因子と結合しないと回腸で吸収できない。
そのため内因子に対する抗体の存在や、胃の摘出後は吸収できず、悪性貧血となる。
B鉄
・体内には3〜4gの鉄が存在する。
ヘモグロビン鉄ヘモグロビンに結合67%大部分
貯蔵鉄(フェリチン)肝、脾、骨髄27%
ミオグロビン鉄筋肉3.5%少量
組織鉄筋肉や皮膚0.2%わずか
血清鉄(トランスフェリン鉄)血漿中0.08%
・健常成人男性の1日の鉄吸収量・喪失量はどちらも約1mg。
吸収:Fe2+を上部小腸粘膜より吸収
↓
運搬:Fe3+の形にしてトランスフェリンと結合させて運ぶ。
↓
ヘム:Fe2+に戻してプロトポルフィリンと結合させてヘムにする。
・TIBC=UIBC+血清鉄
TIBC(総鉄結合能):すべてのトランスフェリンに結合しうる鉄の量
UIBC(不飽和鉄結合能):鉄と結合していないトランスフェリン
血清鉄:トランスフェリンと結合している鉄(約100μg/dl)
・例えば鉄の吸収障害や摂取不足で鉄が減少すると・・・
→トランスフェリンと結合できる鉄の量が減少し血清鉄↓
→もっと鉄と結合するためトランスフェリン↑(鉄はないためUIBC↑)
→TIBC↑の鉄欠乏貧血となる。
赤血球の崩壊
赤血球の崩壊のことを 溶血 という。
@血管外溶血:網内系(脾・肝など)のマクロファージに処理されること
→生理的な現象。過剰になると病的(例:遺伝性球状赤血球症、
自己免疫性溶血、Rh異型輸血、不規則抗体、不適合妊娠など)。
A血管内溶血:循環血中で血球が崩壊すること。破砕RBCが出現。
→病的現象。(例:HUS、PNH、TTP、DIC、ABO異型輸血など)
遊離Hbはハプトグロビンと結合して網内系で一緒に処理。溶血が亢進
すると処理がしきれずにHbが尿中に出現。
細胞表面マーカー
・B細胞 CD10、19、20、22
・T細胞全般 CD2、3、5、7
・ヘルパーT CD4
・細胞障害性T CD8
・NK細胞 CD16、56
・顆粒球 CD13、33
・単球 CD14
・巨核球 CD41、42、61